開通タグホイヤー⑥
香田(仮)がバス停まで送ってくれた。 「じゃあ、また予定が分かったら」と言われたので「また連絡します」と普通に返す。むしろいつも以上に普通に。 時計は午前11時を指していたので、バスの時間まで待ち合い室のソファに座った。
そしてこの数時間の出来事をしばし思い返してみる、何回も何回も。そしてため息をつく。
いてもたってもいられず、友達にLINEを送った。ついにこの日が来たのだった。
話を数時間前に戻そうと思う。 香田(仮)から「今から少し時間ありますか?」とLINEが来たのは朝の8時だった。
早!
というか、私はたいそうムカついていた。あの時。あの場所で。どう考えても今からご休憩処という場面で、華麗にスルーされたからである。恨みは深い。目を瞑っていた私に「寝てんの?」と言われた時の、あの絶望感。
「明日朝早くてサ…、これがサラリーマン時代なら何も考えないんだろうけど、そういう訳にはいかないからね(キリッ)」
キリッ、
じゃねーよ!!!!!カッコつけやがって、だいたい下半身出したまんま言ってんじゃねーよ!!!!くそがくそがくそが…。
「で?
何すか、朝から。あぁ!朝マックでも行きます?(棒)」
迎えに来たのは9時過ぎだった。しかも次の約束まで1時間半しか時間が無いと来たもんだから、ますます意味不明である。しかし、そう言いながらもホイホイと会いに出てくるのが私の特徴であり良いところ(棒)だ
イキリまくりの私とは裏腹に、香田は神妙な面持ちで語りはじめた。「どうしても謝りたくて…」
「あんな途中で帰るなんて、恥をかかせるような事をした。」 「前の旦那さんの事、あんな悪く言っておいて、俺も同じ事したんだと後で気づいた。」 「俺は最低だよな。ホントそいう所、気づけない男なんだ、情け無いけどね。」 あまりにも畳み掛けてくるので、返す言葉が無かった。 というか、「何ですかその、律儀なやつwwww」と笑ってしまった。香田(仮)は「笑いごとじゃ無いって」とションボリしていたが、この妙な、変に律儀な部分が、すごく良いなと思えてならなかった。
そして車はマックではなく、暖簾をくぐった。
ファ!!!!
修行僧になる間も無い、この不意打ち。待ち焦がれたとはいえ、突然暖簾の先の世界に飛び込んで(って、ただの駐車場だが)戸惑いと焦りで目が回った。 「い、1時間半しか無いのに」「いいんだ、構わない(キリッ)」「えぇ…」 Aさんの散文詩「抱き合う時間はなくても構わない、キスができればそれでいいんだ」のようである。1時間半あれば、それでいいんだ。…。 さっきから香田が凄くカッコよく見えはじめてる…さっきからキリッ!がキュンときている。あの最初のおっさん感からすると倍、さらに倍。そして、さらに倍。
「ま、巻きで!やんないと!ひゃっは!」…間が持たないと至らん事を言ってしまうのは私の特徴であり良いところ(棒)であるが、香田は「そういう考えは好きじゃない。」と途端に顔を曇らせた。
えぇー…そこは真面目に怒るのね…。
手が冷たくなっていた。ちょうもうれつにビビっていたのである。「まっ、俺は男だから場慣れしてるから~」と謎の経験値アピールをされたが、もはやどうでもよかった。顔も見れなかった。これからどうなっちゃうんだろ~一つしかないだろ~ああばばばばばばどうしようどうしよう。
ギャー!!!!!!!!
はぁ~。と、またため息をついた。時間は13時になっていた。あれからずっとソファで放心状態だったのである。余韻に浸り杉も甚だしいのだが、動けなかったのだ。友達から、どうだった?と返事が来ていたので「めちゃクソに良かった」と返した。
そう、めちゃめちゃのクソクソに良かったのである。
何回も思い返し過ぎて、研ぎ澄まされたダイジェスト映像のように仕上がっていた。しかも何度再生しても劣らず薄れず満たされた気持ちにしてくれるのだ。今にも香田の声がリアルに聞こえてきそうである。
「何て何て素晴らしいんだ」と心から思った。何しろ自分の今居るこの世界が、まるでバラ色のように輝いて見えたからである。こんなに心から幸せを感じたのは、本当に久しぶりだったのだ。
驚いた事がもう一つある。香田は年の割りに(失礼)細マッチョな良い体型だった。お分かりの方もいるかもしれないが、私といえば
こんなのとか
こんなのを好む、
個性的な性癖…いわゆるデブ専()だったはずである。
ボヨッボヨのお腹に顔を埋め、腹の肉で溺れて興奮する変態野郎だったのだ。それがどうしたことか、香田の引き締まった尻から伸びるスラリとした足を見て「え、超かっこ良い…」と思ってしまったのである。 香田は私の中2から長らく続いてきたデブ専という歴史をあっさりと崩したのである。バブルをトレンディに潜り抜けて来た世代ならではなのか、そのポテンシャルたるや無限大なのだ。
こうして、晴れて開通を果たした私だったが、困った事に今度は毎日ヤキモキとするようになった。次会うまでが死ぬほど長く感じられ、とにかくやりt…会いたいという気持ちが抑えられなくなっていた。7年何てことなく過ごしていたのに、この変わりよう。
私はこれを「開通ハイ」と呼んだ。
この開通ハイに溺れてしまった私だったが、順調に次の開通予約をとりつけていた…そのはずだった。ある日、香田のLINEはこうなっていた。
おわり
開通タグホイヤー⑤
香田(仮)のことが頭から離れず、ボーっとして何も手につかない
あの後、チッスを奪った事で調子に乗ろうとした香田(仮)を引き剥がし、「タイムリミットが近づいて来た」だの「時間が止まれば良いのに」だのグズグズと言いながら、最後は割とさっくりと帰って行った。 その強引さと自信、一体どこから来るのか理解に苦しむ。様子を伺う、という事を知らないのだろうか。 しかし困った事に、嫌ではなかった… かといって好きになったのかと言うと、それは良く分からない。 不思議な感覚だった。 いわゆる、恋愛らしきものの入口に立ち戸惑う、高揚感みたいなものを確実に感じていた。くすぐったいような、そわそわとした気持ち。私は一体何を言っているのでしょうか。
この日を境にモーニング娘。の「リゾナントブルー」が聴けなくなった。
♪どのくらい私を好きなの 遊びじゃキスしない~♪
忘れてはいけない、同時に湧き上がってくる言いようの無い不安。やっぱり、あんな事するなんて軽く思われてるのかな、とかいうネガティブな考えが巡りだす。これが正常な判断が出来なくなる、一番厄介な感情とも言えるのではないだろうか。案の定、私はそれに抗うことが出来ずこんなLINEを送った。
『最初のデートであんな事するなんて抵抗があるので、怖くてもう会えません』
はい、これは嘘です。
会いたくないのであれば、そのまま会わなければ良いだけで、わざわざお知らせする必要はありません。しかし、ここは あ え て ご丁寧にお伝えしたいスタンス。 そう、お分かりのように私は面倒なメンヘラ的こじらせ女なので、気を持たせたいあまり、まんまとこんな事を送ってしまう人間なのだ。あの名曲「それが大事」風に言うならば『されるのが怖いのではなく されなくなる事が怖い』のである。良いよ、分からなくて。 有り難い事に(?)そんなクソ面倒な私を構ってくれる人というのは、おおよそこういう時まともに返してくる傾向にあったりする。良いのか悪いのかは別として、香田(仮)もそうだった。
『ごめんなさい。楽しくて楽しくて、止められなかった。もう、駄目なんですか…?』
超優秀てき回答。私は『デモデモダッテ』と返しながらも内心満たされまくりのワクテカ take a chance状態。 そしてその3日後に、再び会う事になった。
「こないだはゴメンね」「いえ、私が悪いんです」とか言いながらも、わざわざ面倒な燃料を投下させておいたお陰で、すっかり温まっておるわけで、香田(仮)のトレンディ要素も相まって、
「でもわたしホントは嫌じゃなかったです」 「じゃあ…またキスしていいの?」 「////」
とかいう空気になってしまうのは必然。メンヘラとバブルは相性最高かよ(知らんがな)
車は市内の有名な夜景スポットに着き(夜景好きだよな) スカスカの会話もそこそこに、香田(仮)の顔がズズズイと迫ってきた。
※写真はイメージです
「あの。香田(仮)さんて、私のこと好きなんですか?」
香田はウーンと考え言った。
「興味はある。…かな(キリッ)」
「興味…」
「好きとか、付き合うとか、そういうものに縛られたくはないんだ。ただ…楽しい時間過ごせたら良いなって思ってる(キリッ)」
「…」
キマったとでも思ったのかよダッセーな…はさておき、はっきりそう言われた事でちょっと寂しくもあった。が、かといってここで「マジ惚れたぜ!」とか言われたかったかというと、それも違う。それは困る。ってかそれは嘘だ。こんなもの何とでも言える…これくらいの回答が一番しっくり来る気がした。ダッセーけど()
「私もそうかも」
と言いながら目を閉じた。
香田(仮)のチッスは何というかとても良かった(恥)何というか、マシュマロのようなのである。犬みたいなのとか、高速モグラ叩きみたいなのしか知らない私には大層新鮮だった。やっぱり嫌じゃない。そして調子に乗った香田(仮)は「もう止められないかも…」と囁き、あろうことか今度はまさぐりはじめたのである。
お、おお…なんと大胆な…(恍惚)
はっ!
こ、これは…まさか…
来る途中に通り過ぎた、いわゆるご休憩処のピンクの看板が頭をよぎった。 これは、連れて行かれる…連れて行かれる!連れて行かれる!!いや、行け!さっさと行けや!!!
香田(仮)は無言で車を走らせる…。 私は修行僧のように目を固く閉じる。 「さっさと連れていけや!!」を悟られるのは恥ずかしいので、ご休憩処の暖簾をくぐったところで「えっ…あっ、あれっ////うそっ////どうしよ///」とか、とりあえず言うつもりだったのだ。まぁ無意味なのですが。恥じらいは最大のスパイスだとは思いませんか(知らんがな)
しかし華麗に車はご休憩の前を通り過ぎ… (あれっ?違うとこに行くのかな…)
気づけばそのまま送り届けられていた。
ズコー!!!!
やらんのかーーーーい!!!!
つづく
201号
あけましておめでとうございますから 1ヶ月飛んで16日経ちましたが みなさまいかがお過ごしでしょうか?
去年の年末のブログを読まれた数少ない私フリークの方であればお察しかもしれませんが 彼氏が出来て幸せいっぱいな私がブログを書くという事は・・・そう!
高橋(仮)とは終わりました! 早っ! しかも1ヶ月前に、早っ!学生かよ!
3月までの一通りのイベントを乗り越えたら後はその時考える~とか言ってましたが そのような性根で男と女のラブゲームを渡り歩ける訳ないですね。
15年の実績はまるで役に立ちませんでした。
で、その事を書くつもりもありません。 ずっちーな!!
だってめんどくせーもん。そのうちね。
今日は、何てことは無いのですが、ここ半年で変わった環境について書いてみようと思います。 私は去年の10月頃から香田(仮)のお陰で自立を意識しはじめ、11月に再び引越し一人暮らしを始めました。 まぁ自立とか意識高そうな事言ってるんですけど、 要するに香田(仮)に夢中過ぎて会いた過ぎて実家だと不都合だと思いはじめるんですね。 不純過ぎて情けないのですが。
それに伴い、少しずつ元気になりつつあった私は学校に通う事にしました。 もともとその業種には長く携わっては居たのですが、 より深く学びたいと思いましてね…ね、意識高いと思いませんか。 入学金に慰謝料をブッ込みました。わはは。
10年ぶりの一人暮らしは素晴らしいの一言です。
思う存分にぐうたr…自由気ままな生活を送る事が出来るのですから。 当初は男の居ない生活が考えられず、一人で何して過ごしたら良いのか見当もつかず、 死んでしまうのではと躍起になっていましたが、 一人で大量に作った餃子を食べながらふと「幸せだな…」としみじみ思う今日この頃。
要するに充実した生活を送っております。
それでは。
今年のクズ今年のうちに
年末です。
ブログをすっかり放置してしまい、ごくごく一部の読者の方々は私の事なんて、もう忘れてしまっている事でしょう。 結局私ったらまじめなので、ブログ書くのにものすごく時間をかけてしまうんですね。 出来る限りそれは面白くありたいと思うし、想いは余すところなく文字に乗せたい。 そのふたつは時に反発しあうもの。葛藤して書いては消し・・・を繰り返していました。
とか何とか言ってますが 要するに、彼氏できたんで香田(仮)なんて、どうでもよくなったんですよね!あっはっは! どうでも良い人の事を丹精込めて文章に起こすなんて、なんていうか・・・、無駄?
堂々と彼氏なんて寒い事言ってますけど 全く続く気がしないので、そのうちブログに書く日がくるかもしれませんね。 タイトルは「YとGの野球帽(仮)」か「もうひとつの有馬記念(仮)」あたりでしょうか。適当ですけど。
それはそうと、香田のせいで?後がつっかえてしょうがなかったのですが、今年のうちに一つだけ。
今年コンカツで出会った方々やクズ野郎どもを ざっと葬っておきたいと思っているんですよ。私のために。
来年こそは良い年にしたいですからね。
それではお一人目の方からどうぞ~
- 金正日(仮)39歳 サラリーマン 元旦那
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最終総書記系男子「慰謝料100回払いで」
付き合いを含めると15年。私の麗しき20代ぜんぶ棒に振りました、って誰が喜び組やねん。でも悲しいかな思い出はめくるめくマスゲーム。楽しかった事に変わりはありません。もう二度と会うことは無いでしょう。ありがとうございました。
- 六角(仮) 43歳 接客業 元彼
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「俺も離婚してお前と再婚する。俺の連れ子5人と、更に子供作って野球チーム作ろう」
顔がどストライク、おまけにドS、溺れた時代もありましたが、もう良い大人です。その提案は現実的じゃありませんね。お互い歳とりました。昔は激しかったですが、今は頭がハゲましたね。頑張って下さい。
- 香田(仮) 45歳 自営業
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「好きというか、興味はある・・・かな。付き合うとか、そういうものに縛られたくはないんだ。」
総書記系男子からの卒業、そして開通、闇状態からいっきに自立へ導いた彼の功績は大きい。感謝はしているが傷に塩を塗る無責任発言の数々に振り回されたのも事実。その揺るぎないバブル感とトレンディドラマ仕立ての言い草は冷え切った不況世代にはある意味、潤いだったのかもしれませんが、あなたのタグホイヤー、F1並みに早かったですね。ありがとうございました。
- 亀田(仮) 38歳 公務員
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「チャゲアスに『HOTEL』っていう歌が有って」
メガネ男子にはついつい食いついてしまう私です。しかし真面目そうな見た目とは裏腹に露骨すぎる誘い方はクズの極み。友達から「その人元彼です…」と聞いたときは大変驚きました。結局会う事はありませんでしたが、あなた○○市役所の○○課のお偉いさんらしいじゃありませんか、随分と大胆に婚活市場を荒らしまくってるようですが、程ほどにしておいたほうが良いんじゃないですかね。しらんけど。
- 矢作(仮) 38歳 サラリーマン
※写真はイメージです
「今日のパーティで僕、一番人気だったみたい」
メガネ男子にはついつい食いついて(略)女12名に対し男4名という婚パ会社のミスとしか言いようのない回で消去法の取り合い状態。つくづく婚活とは滑稽なものです。しかしそうは言っていられません。友人のアドバイスにより何気ない日常会話LINEを楽しむ!という事を修行だと思って頑張ってみたが苦痛過ぎて断念。
- 向井(仮) 41歳
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「お写真で拝見するより、ずっとお美しいですね」
メガネ男子にはついつい(略)お上品な物腰のインテリ感がウリのご様子で、お誘いの仕方も教科書のよう。恋愛的なものを楽しんでおられたのでしょう。2回ほどデートさせて頂きましたが洋服が全く同じだったのが何とも微笑ましかった。一張羅だったのでしょうか。
- 有野(仮) 45歳
※写真はイメージです
「僕ギックリ腰なんで安心して!」
ノリも良く、最初は(勝手に)最有力だと思っていたが「今からどうスか~?」と23時に突然誘ってくるスタイルに辟易。行くわけねーだろ!
婚パに通いまくり、大して興味はなくとも「ご縁は大切に」をモットーに根気よく続けたものの、これといった成果は得られず、最終的には結婚相談所の勧誘を3時間食らい、ほとほと疲れ果てました。入会金もろもろで50万て、アホか、私は結婚したいんじゃないっつーの。
その後、友人の強い勧めでマッチングアプリ導入。出会い系臭さに抵抗がありましたが、結論としては素晴らしかったですね。わざわざ金払って婚パ行くよりずっと効率的。しかも余程まともな人が多かった印象です。おかげで連絡先ざくざくゲットだぜ。まさにポケモンGO、ポケモンGOやったことないけど。
何でこんなに頑張ってたのか、よく分かりません。どうかしてたんです。 目標はありました。クリスマスまでに彼氏をつくる。頭沸いてんのかとか思うでしょう、しかし私は大真面目です。なぜなら去年のクリスマス、私は布団の中で消えてしまいたいと思いながら時が過ぎるのを待っていました。言いようの無い孤独感と虚しさ…私は、あんな想いだけは絶対にしたくなかったのです。
自分磨き、なんて結局キレイごとじゃないですか?私は単純なんで、結局別では埋められないんですよ。仕事のストレスを旅行で解消~!なんて付け焼き刃にしかすぎず、癒えることはありません、多分。
と、まぁこのように、
書く程でもない思い入れの無い方(酷)も含め、コンカツでそこそこの方々と出会うことができました。ありがとうございました。所詮私なので、ほとんど発展する事はなく、会うことすら出来なかった(しなかった)人たちです。結果として総書記(仮)から香田(仮)を経て高橋(仮)に着地した感じでしょうか。誰が渡り鳥やねん。小池百合子やねん。盛り土満載ってやっかましいわ。 良かったのかどうかはよく分かりませんが、今年1年を振り返れば上出来だと思ってます。今、寂しくないから。
だって明日どうなるかなんて、みんな分かりませんよね? 前後左右 いつも未解決
来年もよろしくお願いいたします。
開通タグホイヤー④
街を歩くカップルが、チョメチョメ済みかどうかを見極めるには、繋いだ手を見ればよいという話を聞いた事がある。普通に繋いでおれば未、貝握りであれば済なのだ。
という事は、いまこの状態は
どういう状態なのだろうか。
半ドイッチ(貝)に目を落としながら私は動揺を隠せないでいた。
おまけに顔から汗が止まらんし、ひたすらハンカチ王子の如く汗を拭い続けていた。
対して香田(仮)と来たら全くお構い無しのご様子で、恐らく45年の人生の中で培われた、カッコ良いとされる俺史上最高のキメ顔()で語りかけるのである。
※写真はイメージです。
「少しでも触れていたい…(流し目)」
「伝えないと伝わらないじゃない(ドヤァ)」
「言わない後悔はしたくないからね(キリッ)」
少しは気付いてましたが、ことごとく言い方がトレンディドラマのそれ、というか、往年の俳優風味が半端ないのである。まぁ、そのいわゆるバブル世代?という事なのでしょうか。えっ、45歳ってそうだっけ?と思ったが、昔の職場にかきあげ女子(往年のほう)が居たのを思いだした。そう、得てしてそういう方は山口智子のようなキャラだったりするのである。
それは置いといて。とにかくそれを意識しはじめると、もう面白くて仕方ないのである。
背後で流れ続けている、せっかくのチャゲアスも、かえってバブル感に拍車をかけている悪循環…。
「帰したくないな。もっと一緒に居たい…」
{セイエーーーーース〜〜♪♪♪}
ああああwwwww
やめろぉぉぉぉぉwwwww
ギャグみたいになってるからぁぁぁぁ!!!
香田(仮)の腕に、何ともイキがっt…お値段の良さそうな時計がしてあるのが目に入る。ここは話題を変えたい。
「い、良い時計ですね」
「ん?これかい?タグホイヤーだよ(ドヤァ)」
「1ドル72円だった時代にロスで(ドヤァ)」
「F1って言ったら分かるかな(ドヤァ)」
…
バ ブ ル ワ ー ド
が
いっぱい出た気がするんだが(ぐらぐら)
バブルを謳歌した世代とはいえ、今を生きている現代人に変わりはないのに、なぜこんなにフレッシュにバブルを語れるのでしょうか。
あと香田をおっさん臭く見せている要因は、そのスラックスよ。教師びんびん色やん。まじで。
※巷ではグレージュと言うらしいが...
しかしそのタグホイヤー、1ドル72円の時代に買った、という割には、とてもキレイだった。大事に使って来たんやろなぁというのは伝わってくる。
なんかなぁ、いちいちさぁ、そういう所は良いなぁ、って思う。
ドライブは地元の某山の展望台から、某港へと移動。陽も翳りはじめ、如何にもなムードにはなっていた。
っは!
香田は待ってましたとばかりに抱き締めてきた。
そしてこう囁いたのである
「やっぱり女の子はさ、こうしてあげなきゃ、抱き締めなきゃ、だめなんだよ。放置なんてしちゃ絶対だめなんだ…。
俺がこうした所で意味無いかもしれないけど…でも…」
…
正直ジーンときてしまった。
これは後に冷静になって思うと、1番心が弱ってる時期に、最も弱いところにブレーキなして突っ込んでこられた状態。いわゆる事故。みたいなもんだったと思う。
しかし私は情けない事に完全に、香田(仮)に絆されてしまったのである。
香田のシャツからは、うすーーく、ほのかーーーーな、普通の洗剤の香りがした。むちゃくちゃ加齢臭ぐらいしそうなのに(失礼)驚くほどクリーン。香水とか柔軟剤の香りがするわけでもなく。
それがまた、妙な安心感をもたらす、わけで。はわわ。
結果、チッスを許していたのである。
はぐぉ!!!
トレンディ怖い!!!!
開通タグホイヤー③
車内ではチャゲアス(往年のアレ)が流れていた。パーティーの時に私が好きだと言ったからだろう、気が利いている。
「香田(仮)さんは独身ですか?」
「え?」
「あ、ずっと独身か…って意味です」
んー、と渋い顔をする香田。
「違うよ、一回結婚してたよ」
そっか45歳なら不思議じゃないな。 前の奥さんとの間に中3の息子と小6の娘が居て、一緒には住んではないそうだ。
そこから自然とお互いの結婚生活の話、いわゆるデリケートな内容になっていった。話せる範囲で…としながらも、香田は色々と話してくれた。それは私も同じだった。同じバツイチだからなのか、相手が香田だからなのかは分からないが、不思議な安心感があった。
「…え?ちょっと待って意味分からない。」
香田の顔色が変わった。7年レスだったという話になったところで、だ。話の流れでつい言ってしまった。
「そんなに仲悪かったの?」
「めちゃくちゃ良かったですよ」
「そういうのが苦手、とか…」
「普通です」
「たまには女性から誘うのも…」
「散々誘いましたよ」
「だったら普通男はさ…」
「全く駄目でした」
「」
余程信じられないのか、矢継ぎ早に質問されたが、聞く事が無くなったようだ。 私も投げやりに言いながらも複雑な気持ちになる。
「ごめん、凄くショックで」
「何で香田さんがショック受けてるんですか(笑)」
「だって普通ありえんやろ。7年も放置するなんて…酷すぎる」
今度は私が黙る番だった。
そうだよね…
「辛かったやろ?頑張ったね」
被せるように言われ、目の前が一瞬滲んだ。 斜めからではあるけれど(だいたい原因の一部であってメインじゃないし)初めて真正面から肯定されたような、救われた気分だった。
くっそ、こんなことで…
っは!!!!
気付いたら手を繋がれていた。
これは噂の手の平サンドイッチ、 いや半ドイッチ? 私は激しく動揺した。 ななななな
「顔、赤いよ…」
香田はさっきまでの業者でなく、かといって最初のあの気の早い感じでもなく、知らない人になっていた。
お前誰や!!!!!
開通タグホイヤー②
あー
石井石井石井石井…
※写真はイメージです
石井ェ…
※写真はイメージです
初めての婚活パーティーから3日、私は未だ石井(仮)を失った悲しみから立ち直れずにいた(得てもないのに)
Tさんに、いかに石井が魅力的だったかを力説し「3人で会いましょうよぉ!」と往生際の悪さを爆発させた程である。
しかし石井ときたら、当日も用事が有ると帰ったきり、その後も一度も連絡を寄越さないという。何でやねん!
私も連絡先カードは渡せていたはずだが、もちろん来ていない。何でやねん!
私とは逆で、仏心など微塵もないタイプなのだろうか。とてもそんな風には見えなかったが…。
それとも、これこそいわゆる「社交辞令」なのか。社交的なのは当然で、興味が無ければ遠慮は無用…婚活パーティーとは思った以上にシビアな場なのかもしれない。しかしながら、下手に期待を抱かせないという意味では非常に明快で、紳士的とも取れる。さすが私の愛した石井は紳士。
「そういうもんだと割り切らなきゃ」と大人なTさんになだめられ落ち着きを取り戻す私。初めての婚活パーティー、思いの外張り切って肩入れし過ぎたようだ。真面目か!
一方、香田(仮)からは誘いのLINEが来ていた。仕事で近くまで行くのでランチでもどうですか。というものだった。
あの気の早い手繋ぎオヤジとは似ても似つかない堅苦しい文面。まるて営業マンの訪問メールのようである。
ランチならばと思いOKすることにした。
要するに、暇だったのである。
ランチは普通に楽しかった。デート感はまるで無く、取引先の営業かなんかと普通に食事しているような感覚だった。あのフライング手繋ぎは幻だったのか…
自営業といっても従業員は持たず、1人で何でもやっているようだった。大変だよ、ありがたい事だけど…という言い方に嫌味はなく、好感が持てた。
最後のデザートが出てきた時、はい。と香田がフォークを渡してくれた。
「ありがとうございます。…でもこれフォークじゃ食べられないですよ(笑)」
私はプリンを指した
「あ!あああ…。俺ほんとツメが甘いんだよなぁ」
香田は申し訳なさそうに照れ笑い。
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パァァ…
っは!!!!
一瞬萌えた、…のか?
お店を出た後、ドライブでもしよう。という事になった。ランチ解散だと思っていた私は狼狽えたが、断る理由が思いつかなかった。
要するに、暇だったのである。