開通タグホイヤー③
車内ではチャゲアス(往年のアレ)が流れていた。パーティーの時に私が好きだと言ったからだろう、気が利いている。
「香田(仮)さんは独身ですか?」
「え?」
「あ、ずっと独身か…って意味です」
んー、と渋い顔をする香田。
「違うよ、一回結婚してたよ」
そっか45歳なら不思議じゃないな。 前の奥さんとの間に中3の息子と小6の娘が居て、一緒には住んではないそうだ。
そこから自然とお互いの結婚生活の話、いわゆるデリケートな内容になっていった。話せる範囲で…としながらも、香田は色々と話してくれた。それは私も同じだった。同じバツイチだからなのか、相手が香田だからなのかは分からないが、不思議な安心感があった。
「…え?ちょっと待って意味分からない。」
香田の顔色が変わった。7年レスだったという話になったところで、だ。話の流れでつい言ってしまった。
「そんなに仲悪かったの?」
「めちゃくちゃ良かったですよ」
「そういうのが苦手、とか…」
「普通です」
「たまには女性から誘うのも…」
「散々誘いましたよ」
「だったら普通男はさ…」
「全く駄目でした」
「」
余程信じられないのか、矢継ぎ早に質問されたが、聞く事が無くなったようだ。 私も投げやりに言いながらも複雑な気持ちになる。
「ごめん、凄くショックで」
「何で香田さんがショック受けてるんですか(笑)」
「だって普通ありえんやろ。7年も放置するなんて…酷すぎる」
今度は私が黙る番だった。
そうだよね…
「辛かったやろ?頑張ったね」
被せるように言われ、目の前が一瞬滲んだ。 斜めからではあるけれど(だいたい原因の一部であってメインじゃないし)初めて真正面から肯定されたような、救われた気分だった。
くっそ、こんなことで…
っは!!!!
気付いたら手を繋がれていた。
これは噂の手の平サンドイッチ、 いや半ドイッチ? 私は激しく動揺した。 ななななな
「顔、赤いよ…」
香田はさっきまでの業者でなく、かといって最初のあの気の早い感じでもなく、知らない人になっていた。
お前誰や!!!!!