開通タグホイヤー①
{それでは気になった方の番号を6つ挙げて下さい。}
と、係の人はアナウンスしたが、私の頭は真っ白だった。
確かに30人の男性が1分ずつ私の前に座っては去って行った。風のように。何が何だか分からないまま、何を話したかなんて覚えていない。ましてや誰に好感を持ったかなんて以ての外である。
それで選べだと?人間の判断能力を何だと思ってるんだ、超能力者ですか?
私はメモ紙に目を落とした。「兄弟多い」「釣り人」「1/6誕生日」…だめだ、こりゃ。
隣のTさんのメモを覗き込む。私の社会復帰に付き合ってもらった友人である。
さすがの賢いTさん、きちんと的を絞って簡潔に書かれてあった。
私は薄〜〜〜い記憶を辿ってみる。すると1人が浮かび上がった。
※写真はイメージです
石井一久を寸胴にしたような、要するに私のタイプだった(知らんがな)職業や趣味も興味深かった。ので迷わずにこの方を指名、後は適当に書き、結果を待つ。
しばらくするとマッチング結果なるものが配られる。要するに「あなたが選んだ人は●人ライバルが居ますよ」「あなたの事●番が狙ってますよ」という、非常に効率的であるのと同時に死ぬほどこっぱずかしいシステムだ。
これを元に、フリータイムに入るのだが「さぁ!積極的にどーぞぉ!」と言われても、え?…え??となるのがオチである。実際、みんな戸惑っているようだった。
私が指名した石井(仮)は私ではなく、Tさんを指名しているというまさかのトライアングルが発覚。いきなりショック。しかし私は果敢に2人で石井の所に行こう!と提案。「一網打尽にしちゃえばいいんだ!」…全く意味不明。
石井(仮)は感じよく話をしてくれて、私は有頂天になっていた。しかも見れば見る程タイプ。何とか爪痕を残そうと私の中の乙女を捻り出そうとするが、そもそも持ち合わせておらず空回り。途中でTさんと喫煙所へ行ってしまったので、1人ポツーンとしてしまった。
ふと目の前を見ると2人組のサラリーマンが座っていたので何となく話し掛けた。「お2人はお友達ですか?」「いや、仕事関係の…」こんな何の変哲もない会話だったと思う。
そして、フリータイムは終了。いよいよ最後のマッチングである。3名指名して、相手と両思いであればカップル成立である。
私は迷わず石井。…と、ここで先程話した例のサラリーマンが、最初に私を指名していた事に気付いた。
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系統で言えば香田晋ライン、45歳 自営業
へぇ、選んでくれてたのか。知らずに喋っちゃったな。
しかし、うーん、年上過ぎるし、いかにもおっさん!な雰囲気だったし、第一まるでタイプじゃない…
でもまぁ、話した感じは悪くなかったし、せっかく指名してくれてたんだし、まぁいっかぁ…
と、ほんの仏心で香田(仮)の番号を記入。結果を待った。
男性、女性の順に退場し、封筒を渡される。カップル成立した人には「おめでとう!」の紙が入っているので、相手の人と合流し連絡先を交換してね!という流れ。
封筒を開けると、Tさんは石井とカップル成立していた。分かっていたがショックである。私は愛する?石井を手に入れる事は出来ず、失恋してしまったのである。
愛しい石井がこちらに近づいて来る。私ではなくTさんのもとに…。ああ刹那。しかしそんな哀愁もつかの間、その後ろから満面の笑みで近づいて来る男…
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「いやあ!ダメ元で書いたけど、良かったあ!どこ行く?」
そう、私は私で、香田(仮)とカップル成立していたのである。
「え…いや、私は帰…」
「この子、借りちゃっていーかな?!」
私の言葉を押し除けTさんに話しかける香田(仮)。しかもちゃっかり私の肩をソフトタッチ。
ああああああーーーっ!!!
完全NG!!!
セクハラ反対!!!
私は猛烈に後悔した。婚活において、仏心なんて出してはいけないのだ。困った。このギラギラおやじどう処理したらいいの…
とりあえず今日は帰ると謝り、LINEは交換した。バス停まで送ると言うので着いて来て貰ったが、途中で手を握ろうとしたのでさすがにドン引きした。
勘違いはダメだよおっさん!!